「無農薬での花の苗づくり」vol.03
吹上浜砂の祭典30回を記念して、これまでの砂の祭典を支えてこられた方々の想いをインタビューしました。今回は、vol.03をご紹介します!
鹿児島県立加世田常潤高等学校 塩屋先生
「砂の祭典」のサブタイトルは「Sand&Flowerフェスタ」。会場を彩るたくさんの花々も見所の一つです。会場には1万本以上の花の苗が置かれますが、そのうちの2000本を担当する常潤高校の先生にお話を伺いました。
インタビュー・文=砂の祭典広報部会 クボ
「砂の祭典」との出会い
ーー本日は加世田常潤高校が「砂の祭典」に協力している花のことについて伺いに来ました。砂の祭典に「熱い想い」で関わっている人に注目しようというインタビュー企画です。
「熱い想い」ですかぁ(笑)。じゃあさっそく農場の方に行きましょうか。(ガラス温室に移動)
ここで、祭典会場に届けるサルビア1000本、マリーゴールド2種類1000本の2000本を育てています。今、順次ポットに鉢替えをしているところです。
ーー素晴らしく設備の整った温室ですね! 私自身、本業は農家ですが、こういう温室で作物を育てられるというのはそれだけで羨ましいです。
昨年春まではビニールハウスでやっていました。でも夏の台風の時にビニールを剥ぐのでどうしても作物が傷んでしまうし、それに一番の問題だったのは排水がよくなくて、雨が降るとハウス内に水が溜まっていたのです。それで花苗も地面に並べていたので、その溜まった水に浸かってしまい、そこからどうも病気が入るような状況だったのです。
それで、栽培部門の見直しでこの温室が空いたものですから、ここを使わせていただきたい! とお願いして今年からこの温室で花苗を作らせてもらっています。昨年の「砂の祭典」用の苗も、ちょうど今の時期の雨で浸かったあとに病気が出たのですよね。でも今年からはこの温室にあるベンチで育苗していますからその心配も無くなりました!
ーー花苗の育苗についてはまた後で伺いますが、その前に塩屋先生と砂の祭典との関わりはいつからか教えて頂けますか?
実は、私が加世田常潤高校に赴任するのは2回目で、最初に赴任してきたのは約20年前、この学校が「加世田農高」から「加世田常潤高」に名前が変わった平成6年4月でした。その時は「造園」を担当していたのですが、その時の「砂の祭典」はまだ「サンドアートフェスティバル」のみだったように記憶しています。記憶に誤りがありましたら申し訳ありません。
ーー今は「サンド&フラワーフェスタ」で「フラワー」が追加されてますもんね。あまり認知はされてないですが(苦笑)、砂の祭典の見所は砂像だけでなくて花も主役なんですよね。
そうです。当時、加世田常潤高校は花の提供ということはやっていなかったのですが、会場で高校が製造している「豚みそ」の缶詰の販売を行っていたのです。生徒の販売実習で。それでたまたま食品加工担当の先生に誘われて、「暇だから手伝います」といってボランティアで会場に手伝いに行っていました。当時は夏に新川海岸でやっていた時代でした。
ーー缶詰は売れてたんですか?
売れましたね! お客さんがたくさん来てくれましたよ。今みたいに他の売店もたくさんはなかったですしね。シャ乱Qのライブの時が結構売れていたように感じましたね! シャ乱Qのライブ目当てに遠くからもたくさんのお客さんが来てくださって。私もライブをチラチラ見ながら「豚みそ(※)」を販売した記憶があります。私自身たいして役にはたっていませんでしたが(笑)あれはいい思い出です。
※豚みそ 今は「黒豚みそ」だが、当時は黒豚を使用していなかった。
ーー伝説のライブですよね。それが「砂の祭典」との出会いですか。
そうですね。販売は1年目から誘われて協力していました。
花に農薬を使うのをやめようと決めた
ーー南さつまのご出身ではないんですよね。
地元は伊佐市です。祖父は南さつま市笠沙の赤生木出身です。「塩屋」という姓はこちらに多いですよね。今回2回目の加世田常潤高校への赴任ということで、やっぱり御縁があるのですかね。
ーー花のことで関わるようになったのはいつからですか?
高校が関わるようになったのは、「砂の祭典」で花文字をつくるようになった時です。当時津貫出身で本校の卒業生でもある川野信博先生が加世田常潤高校に赴任してこられ、「砂の祭典」で花をやろうということになったのがきっかけと伺っています。それで「サンド&フラワーフェスタ」になっていくという流れのようですね。花文字を作るには、かなりの苗本数だったと苦労話を聞いております。
ーー塩屋先生自身として、「砂の祭典」の花に関わるようになったのは。
加世田常潤高校に2回目の赴任をしてきた平成27年4月からです。1回目の赴任時は「造園」担当でしたが、その2年後に「草花」に担当が変わって、それから約20年間「草花」に携わってきました。でもこの数年で「草花」と「造園」の専攻はなくなり選択科目となりました。その背景として、生徒数の減少ということも理由にありますが、カリキュラム的に有機農業を推進するということで「草花」と「造園」は専攻の柱から除かれました。
今、有機生産科は、「野菜」「果樹」「畜産」「作物」の4つの専攻を柱として学習しています。有機農業なのでどうしても食料が中心とならざるを得ません。
ーーでも最近は花も食べられるということで、食べるお花「エディブル・フラワー」が流行ってますよね。
そうなのです! 実は今年から「砂の祭典」に提供している花苗を、無農薬・無化学肥料で栽培しているのです。平成27年度までは農薬・化学肥料を使っていたのですが、平成28年度から花に農薬・化学肥料を使うのをやめようと決めたのです。
有機生産科が平成29年2月28日付で有機認証を取得しましたし(※「有機農産物」などの表示は認証を取らないと使えない。本校は基礎栽培、作物、果樹分野のみ認定)。花は平成28年4月から無農薬・無化学肥料でやろうと。
平成28年度の春から無農薬・無化学肥料で取り組み始めて、最初はうまくいかなかったのですが、まず秋のキンギョソウで成功し、ちょっとずつ結果が出るようになってきましたので、今年の「砂の祭典」からは無農薬・無化学肥料で出そうということになりました。
ーー花というと食べないわけですから、かなりたくさん農薬を使っているという印象を持っていました。見た目がきれいじゃないといけませんしね。
私も以前はたくさん農薬(殺虫・殺菌剤、除草剤)を浴びたり直接触れたりしていました。昔はマスクも防護メガネも合羽も着用しないで農薬散布をしていました。その時は慣れてしまい何とも思っていませんでした。しかし個人的なことになりますが、平成11年に子どもが誕生した際、身体や知的に障害がありました。今でも妻や子どもには、自分自身に対する過去の所業から誠に申し訳ない気持ちでいっぱいですが、それでも元氣に過ごしている家族を見るたび逆に元氣をもらっています。
話は反れましたが、それで私自身農薬をたくさん浴びたり触れたりしたことによる体内蓄積が原因なのではないかと考えるようになりました。花自体は食べものではないので、農薬がかかっていても消費者の方はあまり気にされないかもしれませんが、生産者は完全防備をしても農薬を隙間から浴びます。それではいけないと。そこで前任校の大隅半島にありました有明高校の9年間で、無農薬で花を栽培する方法はないかといろいろ調べ、方法をつかめそうになった頃に閉校となり、平成27年4月に加世田常潤高校の有機生産科に配属されました。全国に1つしかない学科ということで、本格的に無農薬・無化学肥料の花の栽培をしてみようかと。「花で無農薬・無化学肥料をして何の意味があるのか?」と一部囁かれるなど、御理解いただけない部分もあり、現在進行形のままですが...(苦笑)。
「砂の祭典」で飾られた花のポットは、ゴールデンステージ終了後、南さつま市内の各団体に配布されると聞いています。自己満足に感じられるかもしれませんが、その時に安心して消費者の方々に渡せるというのが無農薬・無化学肥料のよいところではないでしょうか。
ーーすごい意気込みですね。
特に完璧は望んでおりません。一品目で7割程の数が製品として世の中に出せたらいいのかなという感覚で花を作っています。雑草が分解して堆積した土と堆肥とボカシ肥(米ぬかを使用した有機質肥料)のみを使って栽培し、追肥もしていません。それでも立派に生育していますよ。微生物に感謝です。
※※無農薬で花を栽培する技術的な話が20分くらい続きましたが、専門的な内容なので割愛します!※※
ーーそうして苦労して栽培した花が「砂の祭典」に並ぶわけですけど、見どころとかありますか?
それはもう「花が長く見られる」っていうことだと思います。会期の終わり頃まで花が持ってくれていると思いますので、そこをぜひ見て頂きたいですね!
人にやさしい農業・福祉が学べる学校
ーー「砂の祭典」用の花づくりには、生徒さんも関わっているのですか?
花を育てるこの時期は入試や春休みが入るなど、実を言うと平成27年度は生徒の関わりが少なかったのです。しかし一昨年度にカリキュラムの見直しをしたことで、実習を組み込むことができる環境になりました。平成28年度から2年生の「草花」選択生と1年生全員に、種まき・移植・鉢替えの実習をしてもらいました。生徒と教員でプラグトレイに種まきをし、それを3号ポットに移植して、さらに4号ポットに鉢替えするという実習です。
ーー加世田常潤高校としての「砂の祭典」との関わりというと、この花苗の提供以外には...。
本校には加工品をつくる食品工学科もあるのですが、食品工学科の生徒は「砂の祭典」の会場で缶詰などの加工品を販売する実習をしています。
ーー最後に、学校の紹介をしていただけますか?
「加世田常潤高校」の「常潤」という名前は、加世田に昔あった常潤院からきており、本校の前身は加世田農業高校です。今は福祉の学科(生活福祉科)もあり、農業分野だけではありません。農業関係の学科は有機生産科と食品工学科で、有機農業に力を入れるようになったのは学科再編のあった平成15年頃からです。生徒数は全科合わせて180名程。農業と福祉が一体となった学校にしていけたらと考えています。これからの農業を支えていくうえで他の農業高校とはまた違った特徴をもった学校だと思います。
実は、今日お話しした無農薬・無化学肥料での花作りは、まだ学内でもあまり知られておりません。このことは、南さつま市ではクボさんに初めてお話しした新たな取り組みです。加世田常潤高校は、人にやさしい農業・福祉が学べる学校だと私なりに感じています!
ーー「素晴らしいアピールありがとうございました! ところで、加世田常潤高校が「砂の祭典」で売っている黒豚みその写真を撮っておきたいのですが...。
そういうことなら担当の先生をご紹介しますね!
(といって急遽食品工学科の福島先生をご紹介してくださいました。塩屋先生ありがとうございます!)
50年以上前からある常潤高校の「豚みそ」
食品工学科の福島です。豚みその写真を撮りたいということで...?
ーー「砂の祭典」で豚みそなどを売っていると聞いたものですから。有名ですよね、常潤高校の「黒豚みそ」。鹿児島で農業高校の豚みそというとやっぱり「伊佐農林」の豚みそが有名ですけど、やっぱりライバル意識とかあるんですか?
いやいや、伊佐農林高校と比べてもうちは全然太刀打ちできませんよ(笑)、歴史が違いますから。向こうは昭和一桁の時代からあります。でも常潤高校の「豚みそ」も少なくとも50年以上前からあって。平成9年頃からはうちで育てた黒豚を使ってつくる伝統の製品です。「黒豚みそ」という製品名にしたのもその頃だと思います。
ーーそんな前からあるんですか!
食品工学科ではジャムやジュース、いろいろ加工食品を作っていますが、やはり一番売り上げがあるのは黒豚みそ。最近はチューブ状の製品を開発したのですが、これが一番売れますね。以前の缶詰入りのものと味は同じなのですが、缶詰のものは具がゴロっとして入っており、チューブの方はペースト状になっているという違いです。
ーー黒豚みそは全部生徒がつくっているのでしょうか。
そうです。平均したら週に1回くらい作っていますね。各学年の実習がそれくらいのペースであるので。来週も、春休みなのですけれど、当番に来てもらって製造します。
ーー春休みにもわざわざ作るって言うのはどういうわけですか?
うーん、何故つくるのかと改めて聞かれると弱いのですが、それが「伝統」だからですかね。それにやっぱり人気商品で、お客さんが喜んでくださっているということがあるので、コンスタントに生産します。全然利益はないのですけど(笑)
ーー売り上げはどうなっているんですか?
売り上げは全部県の収入になります。もちろん製造する生徒も、実習としてやっているので人件費はないです。人件費がタダだからこの価格で売れるのですよね。あ、県に売り上げがいくとは言っても、その分予算はもらっているわけですけど(笑)。
ーー「砂の祭典」ではこの「黒豚みそ」などを販売されるということですが、販売も学生の実習なのですね。
そうです。販売実習として今年も3年生全員が順繰りに店頭に立ちます。できれば2年生も参加させたいなという思いもありますが...。というのは、店頭に立つとお客さんからいろいろな話をいただきます。それが食品加工のヒントになると思うので、みんなに経験させてみたいというのが本音ですね。
ーー高校生のみなさんにも「砂の祭典」で頑張って売ってもらいたいですね。ちなみに普段も高校で販売しているんですよね?
月曜・木曜の14:00~15:00に常潤高校敷地内の「アンテナショップ」という売店で売っていますからぜひお越しください(土日祝日・定期考査期間中・春夏冬の長期休業中・学校行事等は休店日となっております)。
取材:2017年3月23日
インタビューを終えて
「たいしたことはやっていない」と言いながら、無農薬・無化学肥料での花づくりという「次世代につながる農業」に取り組んでいられる姿が印象的でした。「黒豚みそ」もお土産としてマストアイテムです!【クボ】。